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2006年9月20日 (水)

打ち上げ前の雑感

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5人どころじゃありませんでした。
 雑誌一冊作れる人数。

 今回打ち上げられる衛星は太陽観測衛星なので、ずっと太陽を見ていられるよう、地球の明暗境界を縦にぐるぐる回る。これは地上の人間にとって、「夜明けか日暮れが打ち上げ時」であることを意味する。だから23日の本番は朝6時に行われる。
 リハーサルも同じ時間。今日の朝6時。それに参加したのだが、早朝のリハーサルに間に合うよう徹夜でドライブしてきたので、ちょっと体力不足になってしまった。

 M-Vの取材は二回目。前回は打ち上げ前日に訪れて、打ち上げ延期によりすぐ帰ったので、ほとんど何も見ていないのに近い。(ぶっちゃけると、事前勉強不足による取材失敗だった)
 その時の教訓により、今回はリハーサルから顔を出した。おかげで施設や雰囲気を見られた。その時気になったことが一つ。

 今回はおそらく、M-Vロケットの最後の打ち上げになる。今後は別のロケットが使われる。次期ロケットの案はいくつかあるが、まだ決まっていない。その案にしても、万人が納得するような優れたロケットが考えられているわけじゃない。ロケットの性能や価格以外の要素で、その交代が検討されている。
 それで、今日の取材ではM-Vロケットの性能や改良点とともに、ロケットの世代交代についての質問が、宇宙研広報と報道陣との間で交わされた。

 気になったことというのは、そこ。ロケットの話ばかりが多くて、積荷の話があまりなかったことだ。
 今回のロケットの積荷はSOLAR-Bという太陽観測衛星。下の記事のリンク先に詳しく書いてあるが、三つの観測機器で太陽を調べる。大型可視光望遠鏡SOT、X線望遠鏡XRT、極端紫外線撮像分光装置EISの三つだ。
 このうちSOTは可視光と名がついているから、きれいな写真を撮ってくれるだろう。また、SOTとXRTはコロナ加熱の謎を調べてくれる。太陽の表面は6000度程度しかないのに、太陽の周りのコロナは100万度にもなる。なぜそんなことが起こるのか、という疑問に答える研究だ。
 そういった研究についての話が、今朝は出なかった。広報の人がロケット担当の人で、衛星担当ではないためもあったが、話の焦点は衛星よりもロケットだった。

 種子島に行ったとき以来感じていたけど、俺はどうもロケット狂の血が薄いらしい。大きな音を上げて火を噴いて飛んでいくものを、それだけで無条件に素晴らしいと思うようにはできていないようだ。熱狂している人たちがうらやましくて、そんな風に感動したいと思って、種子島に行き、また内之浦に来ているところがある。(今回の打ち上げで何かに目覚めるのかもしれないけど、あまり期待はしていない)
 ロケットを少し離れて見ている。最近、ようやくそれを意識しだした。
 宇宙開発には期待を抱いている。この際、甘い夢を一切抜きで言ってしまうと、死ぬまでに自己増殖型ロボットが他天体にいって発展的な拠点を作り始めるか、もしくは、エウロパや火星地下やイオあたりで、進化した多細胞生物が見つかること、これぐらいは期待している。そこまでやってくれれば、ああ人類もなんとか末広がりでいけるな、と信じて死ねる。行ってほしい。
 そういうことを考えた頭で内之浦に来ると、宇宙研の設備の珍しさやロケットの出来のよさに感心する気には、あまりなれない。面白いな、よく考えたなとその場では感心するけど、そこで納得していちゃいかんだろうという気がする。俺の仕事は、もっと馬鹿なことを考えることだ。ロケットが年間百万本打ち上げられるような世界を、たとえば考えることだ。ロケット部品の細かい数値を覚えることよりも、それがあるとないとでは世界がどう違うのかを考えた方がいい。(だいたいロケットの細部まで理解したら本職の学者や技術者にかなうわけがない)

 そういう筋道で考えてくると、ロケットよりも衛星の話をしたくなる。したいけれど、今日は予習が足りなくてSOLAR-Bについて理解や疑問を抱けなかった。誰も衛星の話をしないことについて、何も言えなかった。
 ロケットに乗せて打ち上げられる以上、衛星の仕事は面白いに決まっている。その面白さを、実物や責任者を前にしながら、うまく引き出すことができなかった。外に出せるような自分の言葉に翻訳できなかった。
 それが今日の反省点。

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コメント

こんにちは、二度目の書き込みです。
僕も宇宙やロケットなど大好きなのですが、実際まだほとんど何もやってないんじゃないか、と思ったりなんかしてます。
いつになったら、飛行機の感覚で宇宙にいけるようになるんだろうかと。まあそれほど宇宙は奥が深いのだろうとも思いますが。
小川さんの作品は、そういったところ(?)がリアルに書かれていて、面白いです。これからも、夢を見られるような話(自分でも何言ってるんだか分からなくなってきたんですが)を書いていただきたいです。
がんばってください。
文章とも言えないような文字の塊ですみませんでした。

投稿: 小説家志望の高1 | 2006年9月21日 (木) 17時10分

>いつになったら飛行機の感覚で宇宙にいけるようになるんだろうか
 それが可能だという展望は、今のところないようです。民間レベルでの宇宙飛行にいちばん近いのは、バート・ルータンのスペースシップ・ワンのチームでしょうが、彼らにしてもまだ弾道飛行しか達成していません。飛行機の進化史に当てはめるならば、まだドーバー海峡も越えていない感じ。

 しかしながら予期せざる飛躍というものはいつだってあるものです。他ならぬ飛行機がそうでした。空気より重いものが浮かぶわけがないと考えられていたが、ガソリンエンジンの急速な進歩でそれが可能になった。
 そういうジャンプを、何もせずにただ待っているだけというのは建設的な態度じゃないですが、まあ、我々一般人にとっては仕方ないですね。アンテナだけ広げておいて、サポートできそうな機会があれば急いで飛びつくつもりでいましょう。その手の会社の株式公開があったら、ちょろっと買ってみるとか。

投稿: 小川一水 | 2006年9月25日 (月) 20時26分

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